AGF®ストーリー

地域との共生

徳之島で広がるコーヒー栽培への
知的探求心と地域との連携
~コロナ禍を乗り越え、再始動~

執筆:2024年9月

読了目安:約5分

徳之島コーヒーの生産支援は、コロナ禍をどう乗り越えたのか?

ようやく軌道に乗り始めた徳之島コーヒー生産支援プロジェクトにブレーキをかけたのは、世界を非常事態に陥らせたパンデミックでした。首都圏に拠点を置くプロジェクトメンバーは在宅勤務体制に移行し、徳之島の3町の自治体でも非常事態宣言下の地域との往来自粛を要請するなど、双方が対面で交流することは困難を極めました。

しかしプロジェクトチームは、当初の計画を止めることなく進めることを決意しました。定期的にオンライン会議を実施し、生育の状況や必要な支援などについて度々話し合われました。

そんな中、2020年4月に第二農場がオープン。生産者会の皆さんやその家族を中心に530本のコーヒーの苗木が植えられました。当初は味の素AGF(株)(以下、味の素AGF)の社員も苗植えに参加する予定でしたが、新型コロナウイルス感染拡大防止対策により参加を見送ることに。

第一農場と新たにオープンした第二農場に計630本のコーヒーの苗が植えられた

「第一農場のコーヒーノキの花が咲きましたよ!」

そんなメールが徳之島から届いたのは、同年7月。離れていてもこのように喜びを分かち合おうと写真を送ってくれた生産者会の皆さんの心遣いに、直接の支援ができずに心苦しい気持ちでいた社員たちは救われるような想いだったといいます。

実際に送られてきたコーヒーノキの花の写真

花の開花が、徳之島でのコーヒー栽培が順調であることを示している一方で、その背景にはいくつもの難題があったようです。例えば、コーヒーノキに陽が当たりすぎないよう、日陰をつくる役割として寄り添うように植えられているセンネンボク。2021年はまだセンネンボクが十分に成長せず、コーヒーノキに陽があたり過ぎて弱っている状態でした。その対策としてネットを張りましたが、翌22年はセンネンボクが高く育ってくれたので、ネットの取り外しを実施。

その後、8月は曇り空や陽が強くない日が続いたおかげで、葉が青々として、実がたくさん付き、10月後半頃から収穫が始まりました。

ネットの取り外しを行う生産者会の泉さん

コーヒーの知識が深まり、徳之島での栽培にワクワクが広がる

世の中が次第にコロナ禍の制限緩和に向けて動きだす中、感染防止対策を講じながらプロジェクトも対面の取り組みを再開。

鹿児島県立徳之島高校で行われたコーヒー教室は、社内資格である「AGF®コーヒー検定」の上級プログラム受講生が講師となり、生徒自身がコーヒーを焙煎・グラインド・抽出する体験型の授業に加え、徳之島コーヒーを身近に感じられるように、今回学んだコーヒーの知識と徳之島の魅力を掛け合わせた店舗開発ワークショップなどが実施されました。

講師を担当した味の素AGFの社員は「高校生がコーヒーに興味を持ち、授業を楽しんでくれて安心した。また私も高校生から島の魅力を教わった」と自らも学びがあったことを教えてくれました。

参加した生徒は、「コーヒーは人の好みに合わせて色々な楽しみ方があると理解できた」
「徳之島のコーヒーは、苗植えから携わっているので、その美味しさが伝わったら嬉しい」などの感想が寄せられた

プロジェクト開始から6年目を迎えた2023年、生産者会が直面する土壌の性質や栽培における課題を新たなアプローチで解決を目指す取り組みが実施されました。

12月5日から7日の3日間にわたり、コロンビアからコーヒー栽培の専門家である農業技師 シアボッシュさんを招いて、約20農園の視察と個別指導を実施し、最終日には、生産者会の皆さんに向けて総括となる講義が行われました。

土壌学(修士号)と植物生理学(博士号)を持つ農業技師の話に真剣に耳を傾ける生産者会の皆さん

説明会の終了後、徳之島コーヒー生産者会の皆さんは、シアボッシュさんからの直接の指導を今後のコーヒー栽培に活かせると、さらに熱が高まっている様子だったそうです。

生産者会の副会長(現:会長)である泉さんは、農業技師とのやり取りを振り返り、次のように語りました。

コーヒー栽培をはじめて十数年が経ち、新たな課題もでてきたと語る生産者会の泉さん

泉さん:

何年かコーヒー栽培をやってきて、収穫量が落ちないよう試行錯誤してきましたが、なかなか方法が分からなかった。今回お話を聞いて、継続して収穫するための知識をもらいました。私は結構年がいってから徳之島でコーヒー栽培をはじめるようになったので、自分の中で終わりを決めているつもりです。次の世代が収穫できるようにコーヒーノキをしっかり育てることが自分のやるべきことだと思っています。

一番やりたいのは、コーヒー栽培に関心を持っている若い世代が興味を持てる体制にしたいということです。

2022年にUターンで大阪から徳之島へ移住し、2023年9月に200本のコーヒーの苗を植え、栽培をはじめた時任さんは、アドバイスをもらったことで次のステップが明確になったと話します。

元々コーヒーを毎日飲んでいた時任さん。
コーヒー産業のことを知るにつれ、自身の関心と父親が残した畑とが結びつくようになったと言う

時任さん:

まずはうまく生育できていると言われたのがホッとしました。今回の研修を通して、コーヒー栽培が将来的に島の産業として成り立っていったらおもしろいなと思います。仲良くしている生産者会の80代の方など、皆さん長生きすると言ってくれているので、いつか一緒に商品化したコーヒーを飲むのが楽しみです。

3日間にわたり生産者会の皆さんと対話しつづけた農業技師のシアボッシュさんは、生産者会のメンバーについて「コーヒーへの愛情や学びたいという気持ちをすごく感じた」とうれしそうに語り、日本を後にしたそうです。

地元の伊仙町役場が寄せる産業化への期待

シアボッシュさんが来島してすぐに訪れたのは、2023年9月より伊仙町役場に設置されている徳之島コーヒーのカフェブースでした。

伊仙町の新庁舎で徳之島コーヒーを試飲する農業技師のシアボッシュさん

徳之島コーヒー生産支援プロジェクトにも参画している伊仙町は、2023年9月に新庁舎が開庁する際にこのカフェブースを設置しました。伊仙町の町民に生産者会がコーヒーを栽培していることやそのコーヒーがどんな味なのかを知ってもらうことが狙いだったそうです。

伊仙町経済課の橋口さんは徳之島コーヒー生産支援プロジェクトへの想いを語ってくれました。

町外からもコーヒーを飲む人がいると語る橋口さん

橋口さん:

徳之島では、畜産、サトウキビ、馬鈴薯、野菜、そして果樹が主な生産物なのですが、将来的にその一角にコーヒー産業が参入できるように支援していきたいと考えています。町民の所得向上や雇用の創出につながっていければ、徳之島にもっと活気が出るのではないかと期待しています。

困難を乗り越え、産業化への期待と希望が見えはじめてきたプロジェクト。次はどのような展開を見せるのでしょうか。お話は次回へと続きます。

これまでの活動レポートは以下の専用ページからご覧ください。

「徳之島コーヒー生産支援プロジェクト」紹介ページ

  • 組織名や所属、肩書、業務内容、商品情報等を含むすべての記載内容は、各取材及び執筆時点のものです。

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