コーヒー大事典

魅惑のラテアートの世界
──初心者から楽しめるデザインと描き方

カップの表面にふっと現れるハートやリーフ。ラテアートは、コーヒーの味わいに「目で楽しむ」を重ねる体験です。基本を押さえれば自宅でも十分に再現できます。ここでは、成り立ち・道具・作り方・上達のコツまでを、ご紹介していきます。

ラテアートとは?まずは“おいしい条件”から

ラテアートは、エスプレッソスチームミルクのコントラストで模様を描く技術です。1980年代のアメリカ西海岸で広まり、SNSの後押しで世界に浸透しました。見た目に目を奪われがちですが、土台は「おいしいカフェラテ」。抽出直後で香り高いエスプレッソと、きめ細かなマイクロフォームがそろって、はじめて線がくっきり立ちます。

エスプレッソのクレマ(表面の泡)が残っていると境界が美しく出ます。ミルクは薄い泡ではなく、舌ざわりが絹のように滑らかな質感が理想。これが模様の滲みを防ぎ、口当たりも整えます。

ラテアートの道具選びは“描きたい線”から逆算する

自宅で始めるなら、エスプレッソマシンと注ぎ口の細いステンレス製ピッチャーが心強い組み合わせ。口が鋭いほど、線は細く繊細に出ます。カップは口径が広い6〜8オンスが扱いやすく、内側が丸い形だとミルクが中央へ素直に流れます。

マシンがない場合は、濃いめに抽出したコーヒー+ミルクフォーマーでも“雰囲気”は十分。クレマが薄いぶんコントラストは弱まりますが、注ぎの感覚をつかむ練習には最適です。

ラテアートの2つの描き方:フリーポアとエッチング

フリーポアは注ぎだけでハートやリーフを生み出す“流れの芸術”。エッチングは注ぎ終えた表面にピックで線を引いたり、パウダーで模様を補ったりする“描線の芸術”。

フリーポアは難しく見えて、ミルクの質・注ぐ高さ・角度が整えば、ハートは意外と早く形になります。エッチングは文字やキャラクターなど表現の自由度が高く、シーンに合わせて使い分けられます。

はじめてのフリーポア(ハート)の基本手順
  • カップ準備:エスプレッソを抽出し、軽く揺すってクレマを均一に。
  • ミルクづくり:目安は55〜65℃。大きな泡を消し、ツヤのあるマイクロフォームに。
  • 注ぎ出し:最初はやや高めから中心へ細く注ぐ→白が出始めたら低く寄せて丸を膨らませる→最後は細く引いて形を切る。

自宅でのコツは“温度・質感・タイミング”

ミルクを温めすぎると甘みが抜け、泡も粗くなります。触れて「熱いけれど持てる」程度が合図。スチーム後はピッチャーをトントン&くるくるして大きな気泡を消し、表面を鏡のように整えてから注ぎ始めます。

エスプレッソとミルクはどちらもできたてが鉄則。抽出から時間が空くとクレマが落ち、コントラストも弱まります。タイミングが合うだけで、同じ技量でも仕上がりは一段引き締まります。

ラテアートでよくあるつまずきと直し方
  • 模様がにじむ:ミルクが粗い/温度が高すぎる → 温度計で管理し、仕上げの撹拌を丁寧に。
  • 白が出ない:高い位置から注ぎ続けて沈んでいる → 途中で低く寄せ、表層に“置く”意識を。
  • 形が歪む:手首だけで操作している → 体ごと前に寄せ、注ぎ口の軌道をまっすぐ保つ。

エッチングやステンシルでラテアートの“楽しむ幅”を広げる

ラテアート上達の王道ルートはハート→リーフ→チューリップですが、ステンシル+ココア(またはシナモン)なら今日から凝った見た目に。ただかけすぎは禁物です。うっすらのせると上品に仕上がります。季節のモチーフやイニシャルで“記念の一杯”にしても楽しいです。

一歩先のラテアートへ:質を上げるミルクと練習法

泡のきめ細かさは、脂肪分とたんぱく質のバランスに左右されます。冷たい状態からスチームすると泡が入りやすく、口当たりも安定。練習では、同じ角度・同じ速度で10杯連続など条件を固定し、再現性を作るのが近道です。模様だけでなく、毎回甘みと口当たりを評価すると、表現も安定します。

自宅ラテアートを成功に導く3ポイント
  • 一杯分だけ作る:大量のミルクは温度ムラの原因。まずは150〜200ml目安。
  • ピッチャーの口で描く:カップを揺らすのではなく、位置と高さで線を作る。
  • 光で確認:注ぐ前に表面のツヤと鏡面をチェック。粗い泡はここで消す。

カフェでの鑑賞、教室やイベントでの学び

プロの一杯は、角度やスピードの些細な差が線の表情に出ます。カフェでは、カップの温かさ・表面のツヤ・香り立ちまで観察してみてください。本格的に学ぶならラテアート教室で基礎を体系的に。競技会や体験会は、同じ目標を持つ仲間と刺激し合える貴重な場です。観る・学ぶ・淹れるを行き来するほど、一杯は確実に進化します。

まとめ──“飲んでおいしい”が最短ルート

上達の近道は派手なテクニックではなく、おいしい条件をそろえる習慣です。抽出直後のエスプレッソ、温度の合ったマイクロフォーム、迷いのない一手。まずは今日、ハートひとつ。明日はリーフ。日常のカップに、あなたらしい物語を描いてみてください。

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