AGF®ストーリー

人と社会の未来のために

彩られたドリンクディスペンサーの前から、つながりが生まれる。
何かを感じ、伝えたくなる場を創りたい。

執筆:2023年1月

読了目安:約6分

 ドリンクディスペンサー(給茶機)の前で、ほっとするひととき。

 おや、このデザインはなんだろう。きれいだな。

 多様な働き方が広がる今、人と人とが対面で会い、話をする機会が減少しています。

 そこで、「アートの力で人や社会とのつながりや、コミュニケーションの輪を生み出すことができれば」との想いを込めたプロジェクトが立ち上がりました。

 今回は、プロジェクトを担当したチームから、企画への想いとこれからの展開について語ってもらいました。

作品と出会い、ココロが動いたことから始まる

 このプロジェクトは、ソリューションビジネス部でドリンクディスペンサーのマーケティングに携わり、新たな企画や製品開発を担当するメンバーの発案から始まりました。

 ある日、彼は友人に誘われて、廃材とアートを組み合わせた展示会を訪れました。そこで、福祉実験ユニット「ヘラルボニー」と契約する作家のアート作品と出会います。

 展示会で作品を見た彼は、素直に「綺麗なアート作品だ」と感じ、役務を全うした機械の廃材がアートによって意味あるものになることに心を動かされます。

 この企画が知的障害のある作家とのコラボレーションであることを後から聞き、自分がこれまで障害のある方との接点がなく何も知らないことに気付くなど、作品を眺めるうちに想いが広がり、「このアートをドリンクディスペンサーにラッピングできないか」というアイデアが浮かんできました。

福祉実験ユニット「ヘラルボニー」とは

 ヘラルボニーは、日本全国の主に知的障害のある作家とアートライセンス契約を結び、彼らの作品をさまざまなプロダクトにして社会に提案することで、「障害」のイメージ変容と、福祉を起点とした新たな文化創造を目指す福祉実験ユニットです。

 「異彩を、放て。」をミッションに掲げ、これまで多くの企業や自治体とコラボレーションし、ライフスタイルグッズから仮囲いアートミュージアム、ホテルの内装などをプロデュースしています。作家たちから生み出される作品は、彼らの個性や豊かな感性、繊細な手先による表現、独自の発想による「異彩」に溢れており、見る人に新たな気付きと感動を与えています。

参考情報

ヘラルボニー

空間を変えるアートとしての存在感

 展示会の翌日、そのアイデアが部内に共有されると、メンバーたちからはポジティブな声が聞こえてきたのです。そして、協業の余地を探るためヘラルボニーに連絡してみることにしました。

 プロジェクトメンバーは、ヘラルボニーの考えや前向きな姿勢、熱い想いを聞いているうちに、ドリンクディスペンサーの新たな価値が見えてきました。それは、アート作品をラッピングすることで、ドリンクディスペンサーの周りが明るくなり、作品を見た人たちがヘラルボニーの取り組みをきっかけに一言二言、話し始め、コミュニケーションの輪が広がる…という価値です。

 企画の発案者である彼は、このプロジェクトをみんなの想いが集まったものにしたいと考えていました。そのため、採用するデザインの選定では、まずはドリンクの価値である「やすらぎ」「リラックス」のキーワードに合った作品をヘラルボニーから10点推薦していただきました。その10点の作品から同じフロアで働く約40名の味の素AGF社員にアンケートを実施し、上位2点が選ばれました。

 選定された作品を見たメンバーたちは「発想や個性は人それぞれで、唯一無二のもの。いろいろな個性があっていいんだ」とあらためて気付かされたといいます。メンバーたちはこの想いを営業担当者と共有したいと考え、まずはこのドリンクディスペンサーの設置に興味を持っていただけそうなお客さまを先に見つけ、そのお客さまの感想や意見とともに営業担当者に説明することを思いつきました。

 実際に取り組みはじめてみると、お客様の関心が高かった点は、障害のある作家の福祉としての側面はもとより、作家のアート作品そのものの価値でした。

個性ある作品からヘラルボニーのファンに

 今回、ドリンクディスペンサーのラッピングに選ばれた2点の作品と作家についてご紹介します。

作品① 「からふるな人間と動物」

作家:神山 美智子(Michiko Koyama)さん
在籍:やまなみ工房(滋賀県)

 1977年生まれ。2009年から『やまなみ工房』に在籍。彼女の絵画が現在の緻密なスタイルになったのは、たくさんの人々が描かれた屏風図をモチーフにしたことがきっかけであった。描き初めは忠実に模写をしていたが、徐々に彼女なりのアレンジが加えられ、密度を増しいつしか人の顔が隙間なく並ぶ絵画へと変化していった。1cm程の人物にも輪郭、表情、髪型やポーズに至るまで、順を追って入念に時間をかけて描く。彼女自身の繊細で何事にも丁寧に取り組む性格が作品にも反映されている。

作品② 「Scratch Works Yay!Yay!No.8」

作家:岡部 志士 ( Yukihito Okabe)さん
在籍:希望の園(三重県)

 1994年生まれ。自閉症。クレヨンを塗って面を創り、色を消すようにニードルで削ってできたクレヨンのカスを集めて、粘土のようにして遊びながら作品を創る。最近ではボードやキャンバスに、クレヨンにポスターカラーを加え着色した面をニードルで削るといったように、制作方法にも幅がでてきている。実はその削りカスを集めてできたかたまり(本人はコロイチと呼んでいる)こそが本人にとって本当の作品であり、結果としてできた絵画はただの削り残したカスであり興味はない。

 ヘラルボニーによると、「神山さんの作品は、“人物を丁寧に緻密に描くことで一つの作品になっている”、岡部さんの作品は、“塗られたクレヨンを削る手法で描かれている”。」とのこと。しかし岡部さんご本人は「削ったクレヨンそのものが作品で、残ったアートは副産物と考えている」と説明していただきました。

 企画の発案者である彼は、ドリンクディスペンサーが完成した後も「初めてヘラルボニーの作品に出会ったときのワクワク感が今なお強く残っており、その取り組みとともにヘラルボニーが好きになった」との想いを話してくれました。

多様な人々と出会い、新たなアイデアを広げる

 異業種と協働した今回のプロジェクトは、ベンチャー企業からの問い合わせなど、これまでの事業やターゲット層の広がりを感じさせるものとなりました。

 ドリンクディスペンサーの「お茶を提供する機械」としての役割は、今回の企画を通じて「コミュニケーションが生まれる場」「より豊かに飲み物を感じられる場」へと広がり、新たなビジネスの可能性やインスピレーションを予感させます。

 多様性をお互いに尊重し、受け入れ合う社会づくりを推進する味の素AGFでは、今後も、異業種とのコラボレーションや社内外の多様なステークホルダーとの活動を通じて、みなさんの「ココロ」があたたかくなる商品づくりに貢献してまいります。

  • 組織名や所属、肩書、業務内容、商品情報等を含むすべての記載内容は、各取材及び執筆時点のものです。

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