AGF®ストーリー
地域との共生
力を合わせて国産コーヒーの産業化を目指す
~徳之島コーヒー生産支援プロジェクト始動~
執筆:2022年9月
読了目安:約8分
徳之島でのコーヒー栽培に試行錯誤を重ねていた「徳之島コーヒー生産者会」の𠮷玉誠一さん。その𠮷玉さんと国産コーヒー豆を使用した製品開発を目指していた味の素AGFが初めて出会ったのは2016年10月のことでした。
「おいしい国産コーヒーをお客様に届けたい!」「徳之島を真のコーヒーアイランドに!」など、互いの夢を語り合い、意気投合した両者による「徳之島コーヒー生産支援プロジェクト」は翌2017年6月、正式にスタートしました。
「一緒に夢を追いかけましょう!」
台風被害に対する有効な対策を打てないまま、徳之島のコーヒー栽培は停滞を余儀なくされていました。そんな時、島の名産である日本茶の視察に来島した丸紅株式会社の社員から「コーヒー生産者と会いたい」との申し出が𠮷玉さんに届きました。
最初、𠮷玉さんは「またか」と思ったそうです。
なぜかというと、これまで何度か他の企業の担当者と面会したことがあったものの、結局は「話を聞くだけ聞いて、何もせずに帰っていった」からでした。しかし、今回は違いました。丸紅社員は「ぜひ味の素AGFの人と会ってください」と𠮷玉さんに頼み、1か月後、約束通り、味の素AGF社員が島を訪れました。
当時、味の素AGFは口当たりの柔らかな日本の軟水に合う「JapaNeeds Coffee®」 というコンセプトのもと、2015年にコーヒーブランド「煎」を世の中に送り出したばかりでした。しかし「煎」に使われたのはタンザニアやコロンビアなどの輸入豆。社員からも「国産のコーヒー豆を使うことで、『煎』ブランドをより強化させたい」という声が上がっていました。
そうした社員の声を受けた経営陣から「国内でコーヒー豆を調達できる産地はないか」 と長谷川さん(当時購買部長。現執行役員)に打診があったのは2016年8月のことでした。
長谷川さん:
当時の経営陣も、日本のコーヒーメーカーとして純国産コーヒー実現への強い思いを持っていました。 「煎」ブランドの強化をきっかけに、多くの社員と経営陣の思いが結びついたわけです。
早速、長谷川さんは取引先であった丸紅社員に国内のコーヒー豆産地の調査を依頼。その結果、「徳之島」が候補に浮上しました。
2016年10月、長谷川さんは徳之島に向かいます。到着した長谷川さんを出迎えたのは、徳之島コーヒー生産者会のメンバー12名と同島伊仙町役場の職員の方々でした。
町役場でこれまでの徳之島コーヒー栽培30年の歩み、そして「𠮷玉さんの活動を支援して、コーヒーを島の特産品にすることで、もっと町を活性化したいと思った」「子どもたちが農業に夢を持ち、将来島に戻ってきてくれれば」など、町の方々の熱い想いにも触れることができました。
長谷川さん:
その後、𠮷玉さんの案内で視察したコーヒー農園で「徳之島で国産コーヒー豆をぜひ一緒につくってください」と依頼しました。突然の打診に𠮷玉さんは驚かれたようでしたが「生産者会のメンバーと相談して後日お返事します」と約束していただき、まもなく私に快諾の連絡が届きました。
翌2017年1月、長谷川さんは再び徳之島を訪ね、「日本のコーヒーメーカーとして純国産コーヒーを実現したい」「そのためにも、徳之島を真のコーヒーアイランドと呼ばれる島にしたい」という思いをあらためて伝えました。そして社内でまとめた台風対策に関する経済的・技術的支援について具体的に説明。生産者の皆さんに「一緒に夢を追いかけましょう」と呼びかけました。
長谷川さん:
副社長と私が二度出向き、我々の思いとともに契約や具体的な支援内容について説明したことで、島の方々に味の素AGFの本気度が伝わったのではないかと思います。ただ私たちが考えてきた台風対策は、これまでご苦労されてきた島の生産者にとっては「(実際の台風に対して)その程度のものでは対策にならない」ということであらためて練り直すことになりました。
また、台風被害の影響もあり、当時の徳之島におけるコーヒー豆の生産量は年間60kg程度とうかがいました。味の素AGF全体でのコーヒー豆の調達量は年間約6万トン。商品化を考えれば、最低でも1トンは必要となります。
生産者の皆さんが直面している現状の課題と目標を照らし合わせれば、これが単なる「原料の調達」ではないことは明らかでした。
当時、味の素AGFではコロンビア、ブラジル、インドネシア、ベトナムといった主要な海外の生産地で循環型の生産支援を始めたばかりでした。そこでは苗木や栽培物資の支援のほか、生産者への農業セミナーの開催などソフト面での支援を行い、やがて収穫されたコーヒー豆を使った商品化を目指そうという長いスパンのプロジェクトに取り組んでいました。
徳之島でのコーヒー生産もこれらと同様に長期的な視点で考えればいい。くわえて、国内であるぶん、私たち社員が足を運びやすく、より直接的な支援がしやすいわけです。
地域と一体となったプロジェクトに
徳之島の方々との合意後、味の素AGF社内に長谷川さんをリーダーとする徳之島コーヒー生産支援のプロジェクトチームが結成されました。プロジェクトチームには、購買部のほか、生産設備と技術指導に関わる生産統轄部、社内教育に関わる人事部、社内外での広報活動を担当する広報部(当時。現コーポレートコミュニケーション部)、そして品質評価を行う開発研究所のメンバーが集まり、台風対策の練り直しとともに、徳之島でのコーヒー豆生産量の増大、さらには商品化までのスケジュールの検討作業に入りました。
コーヒーの苗から実がなるまでには3年かかります。
そのため、5年後までのスケジュールを作成し、そこには「多くの社員に自分の目で生産地を見てほしい」という思いを込めて社内向け体験型研修プログラムも組み込まれました。
そして2017年6月26日、味の素AGF、伊仙町役場、徳之島コーヒー生産者会、丸紅株式会社との4者による「徳之島コーヒー生産支援プロジェクト」の調印式が現地で挙行されました。
調印前に、生産者会から台風の影響を受けにくい窪地に「AGFⓇコーヒー実証農場」の土地約10aが提供され、味の素AGFは育苗と収穫した豆の乾燥用に台風に強い鉄骨を使用した約100㎡のビニールハウスを建設。11月に台風の風に強い低木品種であるアラビカ種コロンビアの苗が植えられました。
同年11月23・24日には「第1回 徳之島コーヒー生産支援プロジェクト 体験型社員研修」が実施されました。参加した味の素AGF社員たちは𠮷玉さんの農場で種植えから収穫、豆の精選までを経験。この社員研修には予想以上の応募があり、翌2018年4月の「AGFコーヒー実証農場」で初めての苗植えを行なった第3回までに、社内すべての部署からの参加者がありました。
2年目となる2018年9月末には大型台風24号が徳之島を襲い、家屋の倒壊や停電など甚大な被害が出ました。「AGF®コーヒー実証農場」もビニールハウスの支柱がなぎ倒される被害が出ましたが、防風ネットなどの台風対策によりコーヒーの木自体は軽微な被害で済みました。この時の復旧作業には社員6名を徳之島に派遣しています。
3年目の2019年からは生産量増大につながる育苗数の拡大などの試みにも着手しました。そうなってくると味の素AGF社員だけのサポートでは人手が足りません。生産者会からの提案を受け、社員が島内の障害者施設3か所と鹿児島県立徳之島高校を回って育苗作業への協力を仰ぎ、いずれからも快諾を得ることができました。徳之島高校に関してはコーヒーの最適発芽条件の検証にもご協力いただき、また鹿児島県農業試験場徳之島支場には防風対策の資材や栽培に必要な各種資材の検証にご尽力いただいています。
こうして徳之島コーヒー生産支援プロジェクトは、名実ともに地域と一体となったプロジェクトに育っていきました。しかし、そのタイミングで発生したのが新型コロナウイルスによるパンデミックでした。
コロナ禍でのプロジェクト継続についてのお話は次回へと続きます。
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